いたずら
目立つわけでもなく、可愛いわけでもない。
気の利いた一言をくれるわけでもなく、かと言って黙って人の話を聞くタイプでもない。
俺、あいつのこと好きかもとクラスの奴らに話した時に、
何で?他にいっぱいいるだろうに、と散々言われるような女だ。
俺自身もなぜあいつなのかと納得してもらうように説明することは、正直言って不可能だと思う。
我ながら失礼な話だが、本当にこれといって男が好む女としての魅力があるヤツではないことは、
俺自身が一番分かっているからだ。
ただ、ふと見せる何かを渇望する表情が、とてつもなく大人びていると思ったのだ。
そして、その表情を崩してみたいという己の欲望にも気付いてしまった。
クラスメイトをちょっと特別な存在だと意識し出すきっかけなど、ほんの些細なことなのだ。
まるで始めから夕陽色を軸に彩られたような教室に、
その色に染まることのない黒い髪を持つ女がひとり佇んでいる。
『何してんだ?』
『数学の課題。』
『あぁ、そんなのもあったな。一人でやってたのか?』
『別に誰かと一緒じゃなきゃできないことじゃないし。』
それもそうだと頷きながらも、
誰かのノートを写すことしかしないベビーフェイスの疫病神と瓶底眼鏡のチャイナ娘が脳裏に過ぎる。
数学のテストで毎回90点は余裕でとる彼女からしてみれば大したことではないだろうが、
やはり自分の力でやろうとする姿勢は好ましい。
『いや、十分偉いだろ。』
『ありがと。』
またあの顔だ。
どこか遠くを見るような、
現状を諦めたような、
求めることを戸惑うような、
切ないほど傍にいたいと思わせるこの表情。
惹かれると同時に、沸々と湧き上がる、奥に押し込めたはずの無茶苦茶にしたいという願望。
こんな俺の内なる欲望の渦など知るはずもない、真っ直ぐな女。
通学鞄の中に問題集を仕舞う手を取り、なりふり構わず思い切り自分の腕の中に引き込んだ。
驚いてはっと呑もうとした息さえも全部全部奪ってしまいたくて、噛み付くように唇に喰らい付いた。
『…意味分かんないんだけど。』
抵抗をしない唇を離してみれば、返ってきた言葉はロマンチックの欠片もないもので。
だけど一度知ってしまった甘い痛みをもう一度感じたくて。
いたずらの域を疾うに超えてしまった行為は、俺の征服欲を満たすには十分すぎる刺激となる。
枷の外れた理性は暴走する。
離れたくないと騒ぐ心臓に、触れ合っていたいと叫ぶ本能に従順に、
がむしゃらに細く反応のない身体にしがみついた。