Laugh away



4月1日C



『で、何の用だっけ?』


人の話、どんだけ聞いてないんだよ。
彼と交流を取ることを放棄した私にも責任があるので、思わず突っ込みたい暴言をぐっと喉の奥に押し込め極めて冷静に応える。

『原稿を受け取りに来たのですが、作品の方はどれほど仕上がっているのでしょうか?』

いかんいかん、仕事に私情をはさんでいては。好き嫌い・得意苦手などの感情に惑わされて付き合う相手を選べる時代など、
私はもう卒業しなければならないのだ。
冷静に、端的に、私のするべき仕事を遂行しよう。

『え?もう締切だっけ?』
『締切は一応3日後ですが、先生は毎回締切に間に合わないということなので、事前に確認をして来いと編集長からのお申しつけで参りました。』
『マジ?!面倒くせぇなぁ。』

そのためだけにここに来た私の方が、よほど面倒くさいんですけど!
あなたのわがままに付き合わされて、いい迷惑なんですけど!

『あの、大変申し訳にくいのですが、私は先生の言い訳を聞きに来たわけではないのです。
できているのか、できていないのか。正直におっしゃっていただけますか?』
『…名前なんだっけ?』
『は?』
『お姉さんの名前。』
ですが、何か?』
『へぇ〜、ちゃんいくつ?』
いきなり名前呼びかよ、馴れ馴れしいな。
『22です。今年23になります。』
『若いのにそんなにピリピリしてちゃ楽しくないよ〜?イライラには糖分。はい、これチョコレート。』
『…いや、カルシウムでしょ。』
『ナイス切り返し。銀さんから糖分もらえるなんて、稀だからね。稀。』

ちょっと、何?自分いいことしましたみたいにやりきった顔してるの。誰も欲しいとか言ってねぇよ。
てか、板チョコのブロック1欠片じゃん!
どんだけケチなんだよ。
いい加減、私を不機嫌にさせているのは自分だということに気付け。
いや、気付かれても困るっちゃ困るのだが。

だが、この人はおそらく私が自分に対して良い感情を抱いていないことを分かった上で、あえてこの態度を取り続けているのだろう。
余計性質が悪い。

現在私の悩みの中心にいる張本人は、板チョコの残りをバリっと頬張り、それが至極当たり前のことのようにけろっとした顔で告げた。
『あ、さっきの質問だけどまだ全然書き上がってないから、ババァに締切延ばすよう頼んどいてくれる?』
『は?!』
『小説家のスケジュールや要望をくみ取るのも担当編集者の仕事でしょ?』
『異論はありませんが、締切を守って作品を仕上げること自体が、小説家の勤めでもあると思います。』
『いやだってさぁ、どうしても煮詰まって書けないときだってあるじゃん?
銀さんのアイデアの泉が枯渇してる状態で締切締切言わちゃったら、泣いちゃうよ?追い詰められちゃうとできない男の子なんですぅ』

抹茶色のソファの上に丸まり、わざとらしく両手で涙を拭う。
その行為が私の逆鱗に触れることを知っていて。
もうしらねぇ!我慢なんてしてらんないっ!!!
あなたには一刻の猶予も与えるつもりはありませんという態度丸出しで、すべての嫌悪感をぶちまけた。

『そういうことをして許される年齢でも職業でもないんです。身の丈に合った行動をしてください!!!!』


や っ て し ま っ た 。
入社初日にして、私リストラされるかも…。



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