月光
★第2話 着陸
『ここ、どこだ?』
コンクリートで舗装されていない砂の道。木目の一階建ての家ばかり。
道を行きかう人はほぼ着物。
ちょんまげの人さえ堂々と恥じることなく歩いている。
昔っぽい街並みに、ミスマッチなようで違和感のない車やお店の看板電灯。
そして大空を我が物顔で横断する宇宙船らしきもの。
『このめちゃくちゃな時代背景は…。』
そうだ、おそらく銀魂だ。
アニメ毎週観てたもんね。銀さんの声に毎回キュンキュンしてたもんね。
うわぁ、妄想って行き過ぎるとこんなにリアルな夢見れるようになるんだね。
想像力思ってたより豊かだな、私。
『って、感心してる場合じゃない。』
よく考えてみると大変じゃないか。私、こっちの世界で何して生きてるんだ?
今日提出の課題終わってないよ、片付けなきゃ。
しかも企業説明会だってあるのにっっ!!!
てか、通行人の視線が痛いなぁ〜。
おっ、よく見たら私、スーツじゃん。通りで浮いてるわけだね。
あはは、天人に間違えられてるのかな。
それはちょっと勘弁だなぁ。直立二足歩行のトラやブタと同じにされたくないし。
とりあえず、自分の身分を知るために役所かなんかに行かないと。
いや、その前に警察に行って自分の身を安全な場所に移すべきか?
でも、身分がわからないんだから逆に逮捕される可能性も否めないな。
攘夷に間違えられて、首飛ばされちゃったらどうしよう…。
指名手配:とか出ちゃったりして…。
サァァという効果音が似合いそうなくらい顔が青ざめてしまったけど、今悩んでたって仕方ない。
……。
うん、一応どっかに行ってみよう。
『で、ここはどこ?』
うわー、結局振り出しに戻っちゃったよ。
いや、最初のとは違う『ここはどこ?』だけど!!
焦っても仕方ないしな。地図はだいたい駅の近くにあるもんだ。
『とにかく歩こうかな。』
『ほーう、どこにだ?』
『あ、駅の方まで。』
『その前に屯所まで来てもらおうか。』
『へ?』
私の行く手をはばかる黒い服。
腰に携えられた刀。
骨ばっているけど、男とは思えないほど綺麗な右手に紫煙を立ち上らせるタバコ。
ゆっくりと視線を上げてその顔を見てみれば、想像通り新選組副長の色男でマヨラー・土方十四朗が、
瞳孔の開いた目で私を見下ろしていた。
わー3次元にしてもかっこいいのね。
なんて感動してる隙を与えられることもなく、私はあっさりパトカーに乗せらてしまった。
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