月光
★第3話 移動
その道中、一言も話すこともなく、抵抗するのも逆効果だと悟っている私はのんびり江戸の町を眺めることにした。
江戸という名ににつかわしくない風景。
コンビニ、スーパー、ラブホに高層ビル。
現代と違うのは本当に道路だけじゃないのか、と思うくらい銀魂の歌舞伎町は栄えていた。
それと人々の着ている服がちょっぴり古風なだけ。
ここにいる人間だって、全然変わらない。
憐れむような顔で私を見る品のないおばさん、
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながらパトカーの中を窺っているニートっぽい男
(多分こーゆーヤツをマダオと呼ぶんだろうな。)、
器用に指を動かし、携帯電話を操作している同年代っぽい女の子
パトカーを見て嬉しそうにはしゃぐ子どもたち。
私が学んできた歴史なんか全然役に立ちそうもない。
文明も技術開発も文学も、全部全部ごちゃごちゃ。
私の知らない世界。漫画の世界。
こんなに端正な顔立ちの年上の男の人が隣にいるにも係わらず、私は比較的冷静だった。
どうせ夢だと開き直っていたから、この世界について真剣に考えようだなんて思えなかった。
屯所についた途端、私は引きづられるように取調室っぽいところに入れられた。
ここも刑事ドラマで見る取調室と何ら変わりない。
学校の先生が使いそうな灰色の無機質な机に、作業用っぽいパイプ椅子。
調書を取るのだろうか、あまり階級が高くなさそうな男の人がメモと筆を持っていた。
(ここはアナログなのね。)
携帯があるならパソコンもあるだろうと思ってたんだけど。
ノロいブラインドタッチより、筆での流し書きのほうが速いかもしれない。
彼は土方さんの出すオーラに圧されたのであろうか、姿を見ると一瞬身体をこわばらせた。
確かにパトカーの中での土方さんとは違った。
何となくだけど、醸し出す空気がツンとしたものへと変化したように感じたのだ。
小さな取調室を一気に冷え切った空間に変えた土方さんは、私に奥の椅子に座るよう目で促した。
こんな小娘一人に、新選組の副長さんが取り調べらしきものをしてくれるらしい。
さっきも言ったように、どうせ夢なのだ。構えることなど、ないない。
さて、小心者の私がいつまでこの姿勢でいられるか。
、自分の限界試してみます。
絶対に負けられない闘いがここにある!!
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