月光
★ピッタリの真相
取調室に行くようにと隊士の一人から伝言を受けた。
土方さん自ら取調べをするなんて、どんな凶悪犯が捕まったんだ?
内心ワクワクしながら、犯人像を想像する。
ゴツイ柄の悪い大男や、ヒョロイ秋葉系の男、ブランド好きそうなキャバクラの女。
が、紹介されたのは俺の予想を覆すくらい至って普通の、大人しそうな色白の女性だった。
はっきり言って綺麗でもかわいくもない。
そんな失礼なことを思いながらも第一印象は大切なので、できるだけ控えめに自己紹介をする。
すると、今まで取調べを受けていたとは思えないくらい軽く、爽やかな笑顔で挨拶された。
土方さんと同じ部屋で、あの突き刺さるようなオーラをずっと感じていただろうに。
こんなに落ち着いているなんて、キモが座っている人だなぁ。
自己紹介を終えた後、土方さんに耳打ちする。
『副長、何の犯人なんですか?』
『ヤツは新しい女中だ。』
『女中?!』
若い女中は、隊士に対して要らぬ感情を抱く対象になるから採用しないって言ってなかったけ?
不可解なことだらけだ。
『山崎、あの女の部屋案内した後、着付けさせて食堂に連れて来い。』
『え?部屋は分かりますが、なぜに着物?!』
『近藤さんが見たいんだと…。』
『…。』
近藤さんは顔や年齢に関係なく、女の人全般に甘い。
そして、そんな近藤さんの命令には、鬼の副長さえも抵抗できないのだ。
きっとこの人がここで働くのを許可されたのも、近藤さんの妙な思いつきなのだろう。
『あともう一つ、……。』
その内容に俺は愕然とした。
『え?!そんなのできませんよ!!』
『アァ?!できねぇじゃねぇよ。やれ。』
瞳孔の開いた度迫力の顔で、有無を言わせない状況。
今に始まったことではないが、無茶苦茶だ。
でも、命令に背く度胸も俺にはないため(情けない…)、とりあえず言われたことは守る。
これは任務だ。
そう開き直った。(人間切り替えが大事さ!)
まず部屋案内。
さんに与えられた部屋は、元々新選組の家族用にと造られたものなので、女中部屋とも隊士部屋とも離れている。
特に話すこともなく、そんな静けさの中、二人分の足音だけが響く。
さんがシギシ鳴る感じに戸惑っているように見えたので、気にする必要はないと説明を加えた。
人の表情を細かく分析してしまうのは、職業病なのだろうか。
さんの少し驚いた表情を見て、やってしまったと思ったが、その後柔らかい笑顔で適当な言葉を返してくれた。
下手に追求されなかったことが嬉しかった。
俺は新選組の影なので、できるだけ表の人たちに顔を知られるのは避けたいからだ。
案内を無事終えた後、次に着物を手渡す。
どの女中さんも着ている普通の着物なのだが、すごく真剣に生地を触ったり、裏地の確認をしたり。
そして、かわいいと小さく呟き、にこりと微笑む。
やはり女の子だなぁとしみじみ思った。
着付けは彼女自身にしてもらおうと思い、一時退散しようとすると、ものすごい勢いで引き止められた。
その様子は、今までの冷静な彼女とは結びつかないほど必死なものだった。
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