月光
★第5話 思考・判断
さり気なく言った一言は、彼の琴線に触れるには十分すぎる刺激になったらしい。
くそっと舌打ちをしながら胸ポケットからタバコを出し、名物?マヨライターで火をつける。
正直タバコの匂いは好きじゃないからあんまり吸って欲しくないんだけどな。
受動喫煙の方が肺にかかるリスク高いって知ってるでしょう?
そんなたいそうなことを言える状況ではないので、黙っておくけど。
そろそろ彼もイライラしてきたのかもしれない。
タバコを持っていないほうの手で、小さな頭をガシガシかく。
黒くて堅そうな髪がサラサラと流れる。
かっこいい人って、何やってもサマになるんだなぁと改めて実感。
ただ豪快に頭掻いてるだけなのにね。
手、やっぱキレイだ。甲の血管がいいなぁ。指も長い。
ところどころ小さい傷があるけど、それすら彼の手の美しさを惹き立てているように思えた。
おっと見惚れている場合ではない。
天人になりすますか、それとも正直に事情を説明するか。
前者だとおそらく不法入星(?)で何日間か屯所に拘束されて、
その後こっちの世界にありもしない星に強制送還させられるだろう。
神楽ちゃんのようなパターンは極めて珍しいケースなのだ。
あれはきっと銀さんのおかげだよ。いや、作者のおかげか。
そうしないとお話にならないからね。
後者だとおそらく頭おかしい人と思われて病院に連れて行かれるか、
攘夷だと間違えられて切られるか、どっちかだろう。
病院に連れて行かれるなら、まだいいか。
それにより、逆に精神が参っちゃいそうだけどな。
攘夷と思われるのは一番避けたい。
あなたの敵ですよーと公言しているようなものだからなぁ。
今の私の頭では、これくらいの選択肢しか思いつかない。
どっちにしてもプラスではないなぁ…。
何を言ったとしても、信じてもらえる可能性は0に近いと考える方が現実的だ。
黙っていてもこの状況がよくなるわけでもない。
でも、下手をすれば私は一生、罪人として屯所に閉じ込められ続けるのかもしれない。
これは賭けだ。
何もしないで後悔するより、何か言って後悔した方が私らしいよ、きっと。
意を決して私は、重い口を開いた。
『…あのですね。』
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