月光
★第11話 意識の考え方
準備ができるまで山崎には部屋の外で待ってもらうことにした。
というか、着替えると言ったら自分から出て行ってくれた。
一人の部屋で、黒のスーツジャケットを脱ぎ、薄いグリーンのカッターシャツのボタンを一つずつ外す。
私が纏っているのは黒いキャミソールと細身の黒パンツだけ。
プニプニの白い二の腕をさらすのは、悪い意味で目の毒になりそうなので、
その上から着物を羽織った。
そこで、廊下にいる山崎に声をかけた。
『山崎さん、一応準備できました。』
『は、はい。あ、あ、開けてもいいですか?』
『あ、どうぞ。』
ごもっている山崎に対して、落ち着き払っている私。
あれ?なんだ、この温度差。
私は別に見られたら困る部分は隠したし、恥ずかしいという感情はない。
だけど今更ながら、こんなかわいくない女の着付けをしなければならない山崎が
なんだか不憫に思えてきたしまった。
悲観的なのは、私の悪い癖だ。
大丈夫、ただ緊張しているだけだよね。
心の中で『なんでこんなブスの着付けしなきゃなんねーだよ、面倒くせぇ。』とか愚痴ってないよね。
だって向こうから提案したんだもんね。
気にするな、!!
『では早速着付けを始めたいと思います。』
こう改まって言われると、小っ恥ずかしい気持ちになるものだ。
山崎の手には、いくつか着物を着る際に必要なものが揃っていた。
『あ、折角着物羽織ってもらってるのに悪いんですけど、
これ、その下に着てもらえますか?』
そう言って渡されたのは、白く薄い生地の着物のようなそうじゃないような。
あ、これ見たことある。成人式のとき着たんだよ、なんだっけ。
あ、そうだ!
『長襦袢…!』
あー思い出した!すっきりした!!
私は彼の目を考えず、何の迷いもなく言われた通り着物を脱いだ。
『わぁぁあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
『え?!』
私何か悪いことした?!と思って、キョロキョロしていたら、
『いきなり脱ぎ出したから、び、びっくりした…。』
山崎は双方の目を手で覆って、へなへなとその場にしゃがみこんだ。
『あ、ごめんなさい。』
いちいち恥ずかしがってる方が逆に緊張させてしまうかも、と相手を気遣ってした行為なのだが、
思いっきり逆効果になってしまったようだ。
女子寮の共同風呂とは違うのね。
私は寮に入りたての頃、人前で裸になるのが嫌だった。
しかしある日、自分と同じように脱衣所で服を脱ぐのにモジモジしている子がいるのを見て、
正直こっちが恥ずかしくなった経験がある。
それから私は少しでも恥ずかしいなとか緊張するなとか、そのような気持ちになってしまう可能性がある場合は、
極力そのことを考えすぎないようにしようと決めていた。
なので、今回のことも“男の人が女である私の着付けをする”という意識は持たないようにしていた。
だって、そう思い出すとドキドキしちゃうでしょ?
始めからそういった類のことを思考の枠から除外しておけば、妙にギクシャクしてしまうことはない。
だけど、山崎の考え方は私とは違うらしい。
突然の私の行動を目の当たりにして、耳まで赤くなっている。
これまた申し訳ないことをしたなぁ、と思った私は膝を抱えてしゃみこんで、
『ごめんね。』ともう一回謝った。
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