月光
★第13話 コスプレ?
それから、着付けが完成するまでにそんなに時間はかからなかった。
やっぱり器用だ。
普段はダメなように見せてるけど、能力は高いように思う。
できるからこそ、上手い生き方を知っている。
こんなに若いのに監察方のエースとして働いているのだ。
無能なはずがない。頭が切れないわけがない。
私は新選組の中での一番のキーパーソンは、他の誰でもない山崎だと思っている。
え?買い被りすぎ?
だって山崎かわいいんだもん!
『はい、着付けおしまい!』
鏡がないからどんな感じかは全然わかんないけど、ぶっちゃけコスプレをしている気分だ。
『さん、似合う!!』
うんうんと頷きながら、満足げに言う山崎。
『ありがとう、優しいね。』
一応笑いはしたものの、男の人に褒められることに慣れていない私の反応は薄い。
なんだか本音じゃない気がして、言わせてる感じがして、素直に笑えないのだ。
『?なんか着付けで気に入らないところとかある?』
小首を傾げて、ちょっと不安そうな顔で質問をする。
『いやいや、全然そんなことはないよ!むしろこんなにキレイに着付けしてもらえて、すごく嬉しいし!』
鋭いなぁ。結構巧く笑ったはずなんだけど。
些細な変化にも、つい気付いてしてしまうのだろうか。
山崎の前では、造った顔は通用しないのかもしれない。
『…ただ自分に自信がないだけ?あはは、なんて。』
あぁ〜、なんで初対面の男の子に本心話しちゃってんだろ。
本当に情けないなぁ。
いつもなら澄ました顔で、なんでもないよってさらりとかわすのに。
後悔しながらも、正直に言わないと納得してもらえない気がしたから、冗談交じりに不安に思ってることを話した。
『さん、キレイだよ?和風顔だから、着物がすごく映えるし。色も白いから、桔梗色がよく似合ってる。
スーツもいいけど、俺はこっちも好きだな。』
『…ありがとう。』
よくさらりとこんな気障な科白が言えるものだ。
年下のくせに、なんて悪態をつきながらも、年下の男の子の言葉でこんなに幸せになれる自分。現金だ。
形勢逆転か、今度は私が赤面する。
しかも言い方が上手い。
“こっちが”じゃなくて、“こっちも”と言う辺りが賢いと思う。
“こっちが”だと、え?じゃあスーツが似合わなかったの?って解釈される可能性があるからね。
というか、私はそう受け取っちゃうかも。
騙されやすいけど、人の科白にはわりと敏感だ。
言葉の裏を読もうとしてしまうタイプ。悪く言えば、まぁ嫌なヤツ。
そんな自分に心の中で苦笑した。
『さてと、準備もできたところだし、夕食食べに行こうか。』
そういや、こっちに来てから何も食べてなかった。
意識し出したら、だんだんお腹が空いてきたぞ。
『うん。』
『それではどうぞ、お嬢さん。』
まるで英国紳士のように滑らかに障子を開けて山崎が構えているものだから、またもやフッと笑ってしまった。
『ありがとう。』
颯爽と外に向かって歩く私は、ほんの少しだけお姫様になれた気がした。
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