月光



★第14話 王子降臨



『山崎ィ、新しい女中ですかぃ?』

食堂へと向かう私たちの前に立ちはだかる細い影。
ぎくりとした表情で、ゆっくりとそちらへと顔を向ける山崎。
私たちの視線の先には、色素の薄いサラサラの髪、まだまだ成長中の顔と身体。
これまた女性が好みそうな甘いマスクの色男、一番隊隊長・沖田総悟がやる気のなさそうに行き道を塞いでいた。

『はい、明日からここで住み込みで働くさんです。さん、こちらは新選組一番隊隊長・沖田総悟さんです。』
『始めまして、です。』

ペコリと頭を下げて挨拶する。
沖田は興味なさ気によろしくーなんて軽い調子で言い(絶対私の名前覚えてない)、冷たい目で嫌味っぽくこう言った。

『若い女中の採用なんか、久しぶりだぜぃ。
自分からこんな評判の悪いところに働きに来るたぁ、誰かお目当てでもいるんですかぃ?』
『へ?』

予期しない問いかけに、思わず間抜けな声を出してしまった。
すかさず山崎がフォローを加える。

『沖田さん!さんは土方さんのスカウトで入ったんですよ。』
『土方さんの?』

目を見開いて少し驚いた表情を見せたが、その後はいつもの飄々とした顔。
そして、山崎からターゲットを私に変え、眉をしかめてまじまじと眺める。

『ふーん、あんた土方さんのコレですかぃ?』
『はぁ?!』

小指を立てて、ニヤニヤしながら私を挑発してくる。
次々と出てくる突飛な質問に、私は対処しきれない。
しかも栄養分の足りない頭では、嫌味の一つを返すことすら難しいようだ。

そんな私の唖然とした様子を見て、沖田はものすごくつまらなさそうに呟いた。

『なんでぃ、違うのか。』

え、この子、今舌打ちしたよ?!私、何も悪いこと言ってないよね?!

『まぁとりあえずよろしく頼みまさぁ。』
『こちらこそ。』
コロコロと変わる沖田の吐く言葉に翻弄されてしまいそうだ。
ペースを崩されてはダメだ。
そう強く自分に言い聞かせ、社交辞令の笑顔ですっと差し出された右手に自分のを重ねれば、いきなりぐっと引き寄せられた。


ふぅ。


『うひゃぉぅっ!!』
『ちょっとぉ、何やってんのォォォオオ?!』

咄嗟に沖田から身体を引き離し、慌てて右耳を覆い隠した。
何、この子危険!!!さすがサディスティック!!!!(関係あるのか?)

『いい反応でさぁ。』

本当にこんな風に笑える人がいるのねってくらい、沖田はにたりと笑って見せた。
その目は何か面白いおもちゃでも見つけたか子どものようにギラギラと光り、笑顔とは到底呼ぶことのできないものだった。
ちなみに背景には、どす黒い影が見える。

敵に回しちゃダメだ。
何故だか分からないけど、本能でそう察知した。
今なら沖田を見て、いろんな意味でドキッとしてしまった山崎の心情が分かる。
極力関わらない方向で働いていこう。
私は強く、この胸に誓った。



top

back next