月光
★第16話 この胸いっぱいの
騒がしい夕食の後、部屋に戻ると布団が綺麗に敷かれてあり、枕側の右端には引き出し付きの鏡台と小さな和箪笥が置かれていた。
また布団の上には、寝巻き用の浴衣と大小さまざまなタオル、それと下着がいくつか並べられていた。
やること早いなぁ。
そして、これ誰が買ってきたんだろう?
不信に思いながらピンクのお花のレースのついた下着を手に取り、サイズを見てみる。
え、なんで?ピッタリ…。
誰にも教えてないはずなのに、どうしてジャストサイズの下着が用意されているのか。
その真相を知りたいような、知りたくないような。
正直使用するのが躊躇われる。だけど、同じ下着をずっと着けていたくはない。
葛藤だ。
とりあえず浴衣と大きなタオルに下着を包んで、それらを手に部屋を出た。
私の部屋は、他の女中の生活スペースとはかなり離れたところに位置しているらしく、
結構歩いたはずなのに、女中とも隊士とも鉢合わせない。
これではお風呂に行けないではないか!
あ、食堂に行って女中さんに聞いてこよう!
そう思って勢いよく目の前の曲がり角を右に曲がると、真っ黒な物体にぶつかった。
『いてっ。』
『すみません!つい急いでて…。』
見上げればそこには土方さん、見下げればぶつかった反動でバラけた手の中のモノたち。
そこにはもちろんピンクの下着もあるわけで、私は慌ててタオルの中に隠す。
『す、すみません!!』
自分で選んだわけじゃないのに、まだ着たわけじゃないのに、やはり男の人に見られるのは抵抗がある。
『…風呂か?』
『…はい。』
お互い顔が赤い、そして何となく気まずい。
『案内してやる。お前を監視するのも俺の仕事だ。』
一言余計である。その発言、なんだか傷つくんですけど。
でも極力気にしてない風を装う。
『まぁ、物騒だこと。』
『おちょくってんのか。』
『親しみを持って会話しているんですよ。』
『相変わらず口の減らねぇ野郎だ。』
『野郎じゃありません。生物学上は女なんですから、そこら辺は気をつけてください。』
『…。』
全く、自分でも呆れるくらい可愛げのない女だ。
信用してもらえないから意地を張っているなんて、バカみたいだ。
『風呂にでも入って、スッキリしろ。今日はいろいろと疲れただろうからな。』
後頭部に感じる大きな手の感触。
信じてないとか、監視するとか、そんなことを言っておきながらこの対応。
意味が分からない。
ちっぽけな胸いっぱいに、ほっこりとした温かさが広がる。
このささやかなスキンシップが目頭を熱くした。
『誰のせいで疲れたと思ってるんですか。』
ぼそっと呟いた一言は、今までの無機質な音ではなく、ちょっと拗ねたような感情のこもった声だった。
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