月光



★第21話 空間変化



女中の外出には、外出届なるものが必要らしい。
ちなみに、一月に三枚までしか支給されないそうだ。
結構厳しいんだな。


女中の仕事は3等分に分けられている。

@私のように料理を主に任されている者
A洗濯や布団干しなどを重点的に任されている者
B隊長クラスの隊士の世話を任される者

給与も位も最も高いのは、もちろん最後の世話係。
しかも、トップの隊士らは結構イケメン揃いらしく、志望者はかなり多い。
確かに、土方さんも沖田も女が好みそうな顔立ちをしているし、近藤さんも黙っていればかっこいい。
好感の持てる笑顔が素敵だしね。

表面上は“目の保養のため”と言っているが、本心では“あわよくば…”と考えている。
あくまで話をしてくれたおばちゃんたちの雰囲気から感じ取った、私の想像にすぎないけど。
みなさん、お年を召されていらっしゃるのにパワフルだわ…。

屯所内の掃除は、隊士自身がするので私たちは関与しない。
プライベートスペースになるわけだから、同性同士の方が気にしなくて楽だろうという近藤さんの配慮らしい。
長い長い廊下拭きや男子トイレの清掃は、朝の剣道鍛錬の時間に遅れたり、公共物破壊した隊士に課せられる罰なのだが、
沖田が雑巾を手に取ったなどという話は全く聞いたことがない。
彼はどこでも自分に正直な自由人だ。


届けに名前、仕事担当場、外出したい日にち、時間などを記入し、会計方に提出しに行こうと意気込んだ。
記入事項を全て満たした用紙の最終確認をしてみる。

『…なぜに土方さん?』

今まで親指で隠れていて見えていなかったようだが、
山崎の手から与えられた一枚の紙切れには、“土方まで”と流れるような字が書かれている。
達筆。土方さんの字なのかな。


オコナインをくれた山崎は、その後、私に歌舞伎町へ繰り出してみてはどうかと提案してくれた。
おそらく彼のことだから、何か私の小さな憂鬱に気がついてくれたのだろう。
ちょっと自惚れてるけど。
いろいろと滅入っていたので、この用紙はありがたく受け取った。
もちろん笑顔でお礼をつけて。
任務を終えた後のような安心した顔をして、彼は静かに部屋を出て行った。


山崎のいなくなった部屋は、さっきまでの一人部屋とは何か違った。

小振りの和風の家具も、未だに草の香りのする畳も、微かな月明かりすら漏れる薄い障子も、
取っ手が私の手に馴染んできた襖も、できる限り綺麗に畳んだ布団も寝巻きも、
何も何にも変わってない。
私を包んでいる三次元の四角い空間ではなく、
私の中にある四次元五次元かも分からない未知の空間が変化したのだろう。
歪んでいた視界は、はっきりと現実を映し出している。

さぁ行こう!

新たな気持ちで障子を思いっきり開けた。
全身で浴びた風は、私の心を洗い流してくれた。

白い薄型の携帯電話のディスプレイは、17:24と表示していた。



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