月光
★第24話 飴玉宝石箱
『わぁ、キレイ!!すごい!!!』
山崎の部屋の大きな和箪笥の中には、色とりどりの着物や帯、
さまざまなモチーフの帯止めがいっぱい仕舞われていた。
アンティークのお店に入ったみたいで、見ているだけですごく楽しい。
ずっとテレビもファッション雑誌もお預けだったのだ。
久しぶりの鮮やかな色合いに、柄にもなくキャーキャー騒ぎ、収拾がつかなくなってしまった。
『はしゃいでるさん、初めて見たかも。』
『そう?私、結構ギャーギャー騒ぐタイプだよ?』
『え、想像つかないなぁ。さんは大人しいイメージが…。』
『そう演じてるから。あ、コレかわいいな。』
『…。』
土方さんは私を置いたまま、タバコを片手に踵を返しどこかに行ってしまった。
山崎曰く、私たちに気を遣ってのことではないかと。
私もそう思う。
女物の反物を、土方さんと山崎と私でキャッキャッ言いながら選ぶのが想像できない。
いや、想像もしたくないけど。
山崎は何となく女の子の服屋さんにいても、あんまり違和感ないんだよな。
一緒に買い物したいっていう贔屓目かしら。
どうも私は山崎が可愛くて仕方ないらしい。
三姉妹の末っ子のくせに、年下の男の子はみんな弟か息子扱いになってしまうのだ。
私の山崎に対する熱い(?)想いはここら辺で止めておいて、
瓶詰めにされたキャンディーみたいな着物たちを凝視する。
ラメ入りのものもあるのか、太陽光に反射してキラキラ輝いて宝石みたい。
じっくり見ていると、濃い色と華をモチーフにしたものが多いように感じるが、
華柄にもそれぞれ微妙な違いがあって面白い。
紅葉、撫子、椿、桜、牡丹、桔梗、薔薇。
自己主張の強い華がたった一人でどーんと構えているものや、控えめな華々がしとやかに一面に咲き誇っているもの。
生地の色が派手なら華は抑え目に、生地が暗めなら主役に。
ファッション関連の品って、本当に眺めているだけで幸せになれる。
『何か気にいったの、ある?』
『んー、迷うねぇ。
着物なんて、成人式の振袖と七五三でしか着たことないから、何が似合うのかもさっぱりだしね。』
『これなんてどうかな?』
山崎が手に取ったのは、濃く吸い込まれそうな藍色に全面に浮かぶ、
大きな華を咲かせた萱草色(かんぞういろ)と緋色のツツジの着物だ。
その神秘的な美しさは、月の光に照らされる夜の植物園のよう。
実は私が一番気になっていた一枚だった。
『…かわいい。』
でも
『今、私に似合うのかな?とか思ったでしょ。』
うわ、厳しいツッコミ来た。
山崎に隠し事は無駄だと言うことはわかっているので、素直に返す。
『相変わらず、人の表情読むのが上手いね。まぁ、図星だけど。』
『俺が勧めるんだから、間違いないでしょ。』
胸を張り、えへんと右手の人差し指で鼻をすすって見せる。
やっぱりかわいいなぁ。
『俺が着付けしましょうか?さんがよければですけど。』
どっかで聞いたことのあるセリフ。
思わず『え?!』と返しそうになったが、
山崎があまりに軽くひょうきんに提案するので、驚きも戸惑いもスッと消えていった。
だったら私もあっけらかんと、こう返すしかないよね?
『山崎さん、着付けお願いできますか?』
この懐かしいやり取りに私たちは顔を見合わせ、歯を出してニシシと笑い合った。
その顔に映えるのは、夜の闇が迫る夕焼けの朱色ではなく、悠然と空を泳ぐ雲のような白色だった。
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