月光
★第27話 イケメンサンタ
初給料で買い物を済ませ、出口専用の扉から外へ出る。
辺りを見回してみたが、土方さんの姿が見当たらない。
まさか置いていかれた?!
ただ土方さんに付いて歩いて来たため、屯所までの帰り道など頭の片隅にさえない。
連絡手段のない私は、下手に動き回るのは逆効果だと考えた。
きっと迎えに来てくれると信じて、大人しく入り口付近で立って待つことにした。
時計の針は12時36分を指している。
外出残り時間は、あと4時間半くらい。
今までは全く視界にも入れていなかった、街行く人々の観察をして時間を潰す。
『くしゅん。』
さっきまでは感じなかったけど、風はないといってもやはり12月。
こんな寒空の下で立ち尽くしたままでは、風邪をひいてしまいそうだ。
冷たい指先を暖めるために吐いた白い息の先に、向かい側から誰かが近づいてくるが見えた。
『さんですよね?』
『…どちら様でしょうか?』
新選組の一隊士かと思ったが、こんな人、見たことがない。
人の顔を覚えるのは、わりかし得意なので間違いはないだろう。
第一、こんなに目立つ外見をした者を忘れられるはずがない。
それくらい、この男の風貌は印象的なものだった。
雪のような短髪ツンツンの白髪に、宇宙のように深い藍色の瞳。
つり目風の二重に、鼻はスッと高く筋が通っていて、唇は薄く、美しい弧を描いている。
身長はおそらく170センチ後半あたり、かなりの痩せ型だ。
身に付けているものは、深紅に雪の結晶が散りばめられた着物に、真っ白な毛糸のマフラー。
例えるならば、冬先取りの若いサンタクロースといった感じだ。
『こちらの世界はいかがですか?元の世界とは、勝手が違って大変でしょう?』
低くも高くもない、丁度良い高さの色っぽい声。
妖艶な笑みを浮かべながら、私の反応を窺っている様子が分かる。
敵か味方かも分からないのに、安易に信用できない。
『何のことだかわかりません。』
『とぼけるのですか?まぁいいでしょう。どうせすぐに、私を信じざるを得なくなるのだから。』
『どういった意味でしょう?』
『おっと、そんな怖い目を向けないで下さい。いずれ、私のこともお話しますよ。』
『いずれではなく、できれば今お伺いしたいんですけど。』
綺麗に吊り上げられた口元に、右手の細い人差し指をあて、“シーッ”というポーズをとる。
その流れるような動作一つ一つに、惑わされてしまいそうだ。
今ここには居ない男にも言えることだが、顔の良い人は何をしても様になるから腹が立つ。
そして、そう分かっていながらも、不覚にもドキドキしてしまう自分の軽さにも腹が立つ。
『…いつか、連絡を入れます。』
『ちょっと、…。』
連絡ってどうやって取るのよ?!
引き止めようと思わず飛び出た右手が、歌舞伎町の宙を仰ぐ。
多くの不審な疑問点を大量に残したまま、あんなに浮いた外見をしているにもかかわらず、
謎の男は流れる人の波に埋もれていった。
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