月光



★第33話 買い物の結末



『フゴォッッ!!!』

ガシャーン!!!!
ぐちゃ!!


思わず眉をしかめてしまうほどの、痛々しい音があたりを支配する。
衝撃によって破損した木の屑らしきものが、着物の裾にポツポツと当たっている。
しかし、どのような状態なのかは全く分からない。
なぜなら私の視界は真っ暗だからだ。
何度か瞬きしていると砂埃の舞っている路地が現れ、頭や顔に感じていた圧迫感から開放された。


『チッ、大丈夫か?』
『…は、はい。』
『いてて。おっ、トシにちゃん!』
『…うわぁ。』


私の真横の崩れた柵の中から、むくっと起き上がって屈託のない笑顔でこう言う近藤さんの左頬は、もはや原型をとどめていない。
色も変色してしまい、見るも無残な姿だ。
この顔で“新選組の局長です。”と言っても説得力のかけらもない。

『…2人が抱き合っているように見えるのは、俺の幻覚か?』
『え?』

気付けば私の腰は土方さんの右手できっちり固定されていて、
おそらくさっきまで頭を抱えてくれていたのであろう左腕は肩を優しく包んでいた。
あぁ、だから何も見えなかったんだ。
慌ててその手を払うのは失礼だと思ったので、そっとお礼を言って土方さんから離れる。

『飛んできた近藤さんから身を護ってくださったんですよ。ね。』
『アァ、まぁそんなとこだ。』
『そうか!すまんなぁ。』

あははと付け加えて、申し訳なさそうに謝るズタボロな彼の隣には、凛とした和服の女性が悠然と構えていた。
青筋を立てた笑顔で。


『お妙さん!!僕たちも一緒に甘味処にでも入りませんか!!』
『うぜぇんだよ、ゴリラアァァァァァァアアア!!!』

えぇぇぇぇえええええええええ!!!
そこまで暴力的になる誘い文句じゃないよね?!
そこまでする必要ある?!

ってくらい激しいアッパーが、お妙さんの真っ白で華奢な右手からくりだされる。
綺麗な放物線を描いて、近藤さんは裏路地の空き地に放り出された。

他の人に危害が出ないために、あっちに投げたのかしら…。
人って殴られるだけでこんなに高く舞い上がることが出来るのね…。
開いた口が塞がらないとは、まさにこの状態のことだ。
と、呑気に分析している場合ではない。


『近藤さんっ!!』

急いで近藤さんの元へと駆け寄ると、白目を向いた状態で意識を失っていた。
ピューピューと微かな息遣いが聞こえるので、生きてはいるのだろうけど、早く手当てをした方が良さそうだ。

『あら、走り寄って心配してくれる女性がいるなんて、ゴリラも案外やるじゃない。』
『毎度のことだが、あんたにとっちゃぁただのストーカーかもしれねェが、俺らにとっては大事な大将だ。
そう無碍に扱ってくれるな。』
『ストーカー行為を愛情表現だと言い張る犯罪者が大事な大将だなんて、新選組も終わりね。』

ごもっとも。

『非番の日にデートするのは勝手ですけど、上司の不備は部下がフォローするものでしょう?
さっさと持って帰ってくださいな。』

笑ってるんだけど、笑ってない。
美人が怒ると半端なく恐ろしいものだと、この状況を持って感じた。
当たり前だけど銀魂至上最恐の女性に私たち2人は逆らうこともできず、
大人しく近藤さんを連れて(というか、土方さんがおんぶして)帰った。



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