月光
★第35話 厳しさと優しさの間
し ま っ た 。
なんでも言ってから気付いてしまっては遅い。
何度も言おう。
私は正直なのだ。
思ったことがポロリと口から零れてしまうのだ。
『何となくそうかなと思っただけですよ。』
平常心だ!自分!!
何事もなかったかのように、平然と答えて見せる。
『ヘェ。そいつァ、随分と働く勘をお持ちなこって。』
いつものようにニヤっと笑うこともなく、斬りかかろうとするくらい勢いを持っていた。
この顔はきっと、新選組の一番隊隊長の顔だ。
ずいっと私の首に当てられたのは、紛れもない真剣。
うわぁ、よく切れそうな刃。
だって、別に見えなくても良い私の凡人顔が、刀身に綺麗に映ってるよ。
『始めからおかしいと思ってたんでさァ。取り調べ受けた女がここで働くなんざァ、お前どんな手を使ったんでィ?』
『…どうもこうも、私はシロだと見なされたからここで働くことになったんじゃないですか。』
『この落ち着きっぷりがまた、何とも言えねぇなァ。』
チリッとかゆい痛みがして、あぁなんかこれ紙で指切ったときと同じ感覚だなぁなんて呑気に思う。
何となくだけど、私死なない気がする。
喉元に突きつけられた銀色の刃も、決してぶれることのない凍てついた視線も、どれもこれも死と隣り合わせの状況なはずなのに。
何となくだけど、私大丈夫な気がする。
どこかでここは漫画の世界だからって、割り切ってる部分があるからかもしれない。
どんなに刀に込められた力が強くなっても、首筋に生ぬるい何かが伝っても、私は表情を微塵も崩さなかった。
『止めろ、総悟。』
近藤さんの静かだけど重みのある一言で、沖田はあっさり剣を引いた。
どうせならもっと早く制してよなんて、憎まれ口でも叩いてやりたかったが、生憎そんな余裕など私には全くなくて。
緊張の糸が切れたのか、私の目からは無意識のうちに涙が零れていた。
死なないって思ってたくせに、大丈夫だって思ってたくせに、
やっぱりどこかでは“殺されるかもしれない”っていう恐怖があった。
きっと表情が何も変わらず落ち着き払っていたのは、その意識していない恐怖が、顔の筋肉すら支配していたからだろう。
『こら、総悟謝りなさいッ!!』
『すいやせんでしたァ。』
私の涙にオロオロする近藤さんとは対照的に、先ほどのことは大したことでもないと言いたげなほど偉そうな沖田。
その飄々とした態度はいつも通りで、それを見た私は何ともいえない安堵感を感じた。
『新選組の隊士はどこから来たのかも分からないヤツばっかだが、みんな胸に大義を持った志の高い者たちだ。
だから、今更ちゃんの身元を根掘り葉掘り聞こうなんてことは、思っていない。
だけど、いつかは話してやってくれんか。
俺もトシも総悟も、他の隊士もみんなみんな、疑いの気持ちなんぞ取っ払って、ちゃんと接したいんだよ。
心から“仲間だ”と言いたいんだよ。』
そっと目尻の涙を拭ってくれた手は、大きくてゴツゴツしてて、そんでちょっと毛深かった。
『…はい。お気遣いの言葉、ありがとうございます。』
相変わらずの優しさに、見返りなど求めない疑うことを知らない、愛情をいっぱい持った温かい手に、また涙が零れた。
『あーぁ、泣かしちゃダメじゃないですかィ。きっと近藤さんの手が毛深くて気持ち悪いせいですぜィ。』
『えぇぇぇぇえええええええええ?!俺のせいっ?!』
えっと、今までの感動シーン返してくれるかな。
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