月光



★第46話 宴会開始



お皿に乗せた雪ウサギの形がだんだん小さくなってきたころ、いよいよ雪見酒の始まりとなった。
山吹色に白い六角形の結晶模様の着物を身に付けた私は、土方さんに連れられて今まで一度も来たことのない大きな和室にたどり着いた。
大宴会場には隊長クラスの隊士から下っ端の隊士まで、総勢60名ほどの男が集まっており、好奇の視線をこちらに寄せる。

女だけの環境に慣れすぎていた私にとって正直入りにくいことこの上なかったが、
入り口でもじもじしているわけにもいかず、ずっと土方さんの隣にいるわけにもいかず、
意を決して部屋の隅に腰を据えた。
それと同時に空のグラスを渡され、私が飲める・飲めないお構いなしに、並々と生ビールが注がれる。
まぁ、別に飲めるから良いのだが。

部屋の中心には大きな長方形の座卓があり、その上には所狭しと様々な料理が並んでいる。
居酒屋的なメニューの食事を、わざわざ夕食担当の料理番さんが作ってくれたようだ。
シ−ザーサラダ、枝豆、焼うどん、唐揚げ、その他もろもろの高カロリーのおかずばかりである。
体型を気にする女の子にとってはとても恐ろしいコースメニューたちだが、この部屋にいる異性は明らかに私一人なのだから何も言えない。


『集まったな。よぉし、みんなグラスを取れぇ!!!』
『おぉぉぉぉぉー!!』

正直このノリついて行けねぇ。
脳裏に冷めた自分がいるが、表面は笑顔で右手のグラスを部屋の中心に掲げる。

『明日も仕事があるが、羽目を外しすぎぬよう楽しんでくれ!乾杯!!!!』
『乾杯っ〜!!!!』

近藤さんの一声により、一斉に飲み会のスタートとなった。
圧倒されるほどの大量の料理が、あれよあれよと言う間に奇麗になくなっていく。
まったくなんというか、流石男世帯…。

そして当たり前ながら、自分の居場所が見つかりません。

私を華として誘った近藤さんは、初めこそ私の傍で気を利かせて笑いかけてくれていたが、
今はすでに黒い塊の中心でお妙さんに対する愛をひたすら唱えている状態だ。
一方で、相変わらず沖田くんは土方さんをからかって遊んでいる。

私の周りにいる隊士たちも、親しくない私より気心の知れた仲間と話す方が楽だからだろう。
誰も寄って来ない。
かと言って、自分からすでに形成された友の輪に入るのも面倒だ。

とりあえず何も盛られていない大皿や、空になったビール瓶を集めて端に寄せる。
この部屋に置いていても邪魔になるだろうと感じ、皿や瓶を大きな盆に乗せ廊下に出た。
そこは熱気溢れる男特有のにおいが全くせず、青い葉の香りを乗せて運ぶ夜風が心地よい。
一歩踏み出すとギシギシ鳴る廊下に、手に持っていた荷物を乗せる。

夜の帳と月に照らされ、神秘的な青を魅せる眼下の雪。
その深さと淡さを併せ持つものに、はっと息を飲んだ。

『…奇麗。』

素直に零れるこの言葉。

雪見酒という名のイベントの中、誰ひとりとして外の世界に目を向ける者がいない状況に呆れると同時に、
この景色を独占できる自分が幸せ者のように思えた。
いや、実際幸せだ。

元々騒がしい飲み会は好みではない。
大人数の中の沈黙も苦ではない。
大人しく、ただゆっくりと、気分を高揚させてくれる酒を味わうのが至福の時間なのだ。
それが例え、一人であったとしても。

…………。

でもやっぱり何か、寂しいぞ。




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