月光
★第48話 限界点突破
1ショットだいたい¥1000近くするあの魔王?!
毎回挑戦しようと思いながらも、お財布からの悲鳴で断念せざるを得なかったあの魔王?!
まさかこんな所で飲めるとは。
『ごめん、やっぱり甘いお酒の方がいいよね?』
あわあわと焦る山崎は、黙って透明な液を眺める私を見て、焼酎が苦手なのだと解釈したのかもしれない。
いやいや、かなり飲んでみたかった一杯ですから、下げられては困る!
慌てて引っ込まれる左手を自分でも驚くほどのスピードで掴み、完成しきっていない笑顔で引き止めた。
『ううん、飲んでみたかったから嬉しい。ありがとう。』
『…そう。』
必死な私を見て、若干引き気味だった顔は見なかったことにしておこう。
気を取り直して、お互い向き合い、コップをカチンと鳴らし合った。
『じゃあ乾杯。』
『乾杯。』
グラスに口を近づけていくと、徐々に伝ってくる蜜柑のようなフルーティな香り。
ゆっくりと含むと、口当たりがとても柔らかい。
『うま。』
自分の表現力のなさに心底嫌気がさしたが、本当にこの一言に尽きる味だったのだ。
『そりゃよかった。』
憑き物が落ちたような顔で、山崎はようやくグラスに口をつけた。
『今までの芋とは全然違う感じがする。』
『味の違いまで分かるなんて、さんって意外とおじさん嗜好?』
『あら、自分から渡しといてその台詞ないんじゃない?』
『わわっ、ごめん!』
そう言って、余計なことはもうしゃべるまいと、酒を飲むことで口を塞ぐ。
コクコクと喉が上下に動くたび、透明な容器から液体が減る様子を見て、自分とのペース配分の違いに気付いた。
強いんだなぁと、なんとなく思った。
『山崎くんってなんかモテそう。』
『えぇ?!』
『だって、丁度誰かと話したいなって思ってたところだったから。』
一人も好きだが、誰かと空間や時間を共有したいときだってある。
山崎はタイミングの良い男だ。
まさに構ってほしい瞬間に、何も言わずともさっと現われてくれた。
そのおかげで、さっきよりも断然、お酒が美味しいと感じる。
『…さん。酔ってるでしょ。』
雪の中に入れていた足が、更にじんじんと疼いている。
『酔ってないよ。』
足だけじゃない。身体じゅうが鈍い電気を帯びたように、ぴりぴりと痺れ出してきた。
『いや、酔ってるって。』
『平気だもん。』
私は酔っぱらったことがない。
自分に制限をかけていたから。
だけど、その制限を取り払った私は、限界を知らない。
ある一線を越えたことなどないのだから。
許容を超えたアルコールが身体にどんな反応を起こすかなんて、私は知らない。
だって許容を超さぬよう頻繁にトイレに行き、アルコールを排出していたから。
…そういえば、普段アルコールを摂取すれば必ず多くなるトイレに、今日はまだ1回しか行ってない。
上下の出口の信号が、黄色から赤に変わってしまいそう。
身体の不調を認識したと同時に、急激に上昇してくる奥に押し込めたはずの何か。
『…う、やっぱ酔っているかも。』
『えっ?!』
『トイレ行きたぃ…。』
『ッ!!ちょっとォォォオオオオオオ!!!!』
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